コラム

公開 2020.11.24 更新 2023.01.27

電子契約とは?メリット・デメリットと導入の注意点を弁護士がわかりやすく解説

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新型コロナ禍で加速した「脱ハンコ」への動きは、今後もますます拡がりを見せていくことでしょう。

脱ハンコに伴い利用が増加しているのが、電子契約です。
電子契約とは、紙で作成した契約書に双方が押印をするのではなく、電子文書で作成する契約方法です。

今回は、電子契約について弁護士がくわしく解説します。

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電子契約とは?

電子契約は、従来紙によって作られていた契約書を電子文書で作成する契約方法です(電子委任状法2条2項参照)。
紙で契約書を作成するのに比べて、製本、押印、郵送等の手間がなくなり、離れた場所にいても容易に契約手続きを完了できるなどのメリットがあります。

ちなみに、電子署名を使用した電子契約には、電子署名を誰が行うかによって、「当事者署名型」と「事業者(立会人)署名型」と大きく2つの種類に分かれます(そもそも電子署名を使用しない電子契約もありますがここでは省略します)。

「当事者署名型」というのは、その名のとおり契約をする本人たちが電子署名を行うものです。
ただ、電子署名を行うには、あらかじめ電子認証局に登録しておく必要があるなど手間がかかります。

「事業者(立会人)署名型」というのは、電子契約サービスの提供事業者が、利用者の指示に基づいて電子署名を付すものです。
利便性が高いため、今普及している多くはこの「事業者(立会人)署名型」です。

電子サインと電子署名の違い

電子契約で主に使用される電子署名と似たものに、電子サインが存在します。
では、電子署名と電子サインは、どのように異なるのでしょうか?

電子サインとは

電子サインとは、メール認証など比較的簡易な方法で本人確認を行い、電子の文書に押印をする仕組みといった電子署名以外の方法と、電子署名の総称です。
電子署名を除く電子サインにおいては、タイムスタンプなどにより、文書が改ざんされていないことを担保することが多いです。

電子署名とは

電子署名とは、あらかじめ第三者機関である電子認証局が厳格に本人確認を行い、電子証明書を発行したうえで、電子の文書に押印をする仕組みです。
タイムスタンプや電子書面相互の仕組みにより、文書が改ざんされていないことや、本人が真正に作成したことなどを証明します。

電子契約には法的リスクがある?

令和2年5月28日、クラウド上の契約に法的リスクがあるとのタイトルで電子契約に関する特集記事が掲載・配信されました(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59603460W0A520C2000000/) 。

電子署名については、電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律。以下同じ。)が、紙の契約書に押印したのと同じ法的効力を持つ要件について規定しているのですが(電子署名法2条1項、同法3条)、この規定が、現在普及している「事業者(立会人)署名型」の電子契約には適用されない可能性があるという内容でした。

契約自体の有効性が否定されるわけではないのですが、電子契約におけるリスクとして捉えられ、電子契約に対するリスクに焦点が当たってしまうという影響があったように思います。

実際、「契約が有効でなくなる可能性があるというしやはり不安だ」という声もあったようです。
その後、令和2年9月4日付政府見解(利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A)が公開され、「事業者(立会人)署名型」でも、一定の要件のもと、電子署名法3条が適用されることが明確にされたのですが、この記事等の印象から、不安がぬぐえないかたもいると思います。

そこで、電子契約は本当に大丈夫なのか、紙の契約書と比べてどんなメリット・デメリットがあるのか、簡単に見てみたいと思います。

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電子契約の有効性

そもそも契約は、書面が要求される一部の契約(定期建物賃貸借契約など)を除き、口頭でもLINEのやり取りでも、有効に成立します(民法522条2項)。
ただ、特に口頭でのやり取りですと、「言った言わない」の争いになりやすいです。そこで、争いになったときのために、「誰と誰が、どのような内容の契約をしたのか」を証拠として残しておく必要があります。
この証拠にあたるのが、契約書です。

ですから、電子契約も契約としては当然に有効です。
問題となるのは、契約の有効性ではなく、後日争いになったとき、はたして電子契約が、「誰と誰が、どのような内容の契約をしたのか」を立証する有効な証拠となるのか、という点です。「パソコンの画面やプリントアウトされた紙ぺらを見せられたって、署名も押印もないそんなものは信用ならないよ!」と言われないか、という問題です。

押印された紙の契約書については、いわゆる「二段の推定」が認められているので、「誰と誰が、どのような内容の契約をしたのか」を立証する有効な証拠になりやすいといえます。
すなわち、作成名義人(契約当事者)の印鑑による押印があれば、まず当該押印は作成名義人本人の意思に基づく押印であると事実上推定されます(一段目の推定)。
そして作成名義人の意思に基づく押印があれば、当該文書全体が作成名義人の意思に基づいて作成されたものであると推定されます(民事訴訟法228条4項)。
したがって、契約書の押印が契約当事者の印鑑によるものであることさえわかれば、特段の反証のない限り、契約書全体が契約当事者によって作られたものであると認められるのです。

電子契約については、電子署名法3条より、作成名義人の意思に基づく電子署名(同法3条に定めるもの)が行われたときは、当該作成名義人が、その電子契約文書を作成したということが推定されます。
先の特集記事は、「事業者(立会人)署名型」の電子契約の場合、電子署名法3条の要件を満たさない可能性があることを指摘したものでした。
しかし、これについては、「事業者(立会人)署名型」でも、一定の要件のもと、電子署名法3条の要件を満たす場合があるという政府見解が公開されました 。
したがって、電子契約が後日の紛争に備えた有効な証拠となるのかという点に対する不安はほとんど解消されたといえます。

電子契約の契約方式

電子契約の契約方式には、「当事者型」と「立会人型」の2つが存在します。
それぞれの概要は次のとおりです。

それぞれ特性が異なりますので、締結をする契約の重要度などに応じて使い分けるとよいでしょう。

当事者型

当事者型の電子署名とは、第三者機関である電子認証局が事前に厳格な本人確認をしたうえで電子証明書の発行を受けるタイプの電子署名です。
電子署名を行う前に電子認証局で手続きをしておく必要があり、手間がかかる点が難点でしょう。

立会人型

立会人型の電子署名とは、電子契約サービスを提供している事業者が、ユーザーである本人の指示に基づいて署名するタイプの電子署名です。

あらかじめ電子認証局での手続きが不要であり、当事者型よりも手間が少ないといえるでしょう。
そのため、こちらの「立会人型」のほうが多く利用されています。

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電子契約の導入における注意点

新たに電子契約を導入する際には、次の点に注意しましょう。

業務フローの変更が必要となる

電子契約の導入によって、契約に関する業務負担が軽減されます。
たとえば、印刷や製本をしたり印紙を貼ったりする手間が不要となります。

これに伴い、社内の調整を含め、契約に関する業務フローの見直しが必要となるでしょう。

取引先の協力が必要となる

電子契約を締結するには、当事者双方が電子契約を導入し、社内フローを整備していなければなりません。
たとえば、いくら自社が電子契約に対応したところで、相手先企業が電子契約を導入し、社内フローを構築していなければ、この企業との契約を電子で行うことはできないということです。

すべての契約書に対応しているわけではない

電子契約を導入したからといって、すべての契約を電子で締結することができるようになるわけではありません。
なぜなら、法令の規定などで、紙での契約が必要とされているケースがあるためです。

たとえば、令和4年10月現在、訪問販売などについて特定商取引法において紙での契約書面の交付が求められるため、電子化は難しいでしょう。
ただし、こちらは電子化へ向けて、検討が行われています。※1

電子契約のメリット

電子契約を導入することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
主なメリットは、次のとおりです。

印刷や製本が不要である

1つ目のメリットは、契約書の印刷や製本が不要である点です。

紙で契約書を取り交わすためには、その契約書を印刷し、複数枚にわたる場合には製本をするなどの手間がかかります。
また、製本をした契約書への押印は1か所のみでは足りず、各ページにまたがる部分や製本をした袋とじ部分への契印もしなければなりません。

企業によっては取り交わす契約書の数が多く、1つずつにかかる時間や印刷コストは微々たるものであったとしても、積み重なると無視できないものとなるでしょう。

電子契約を導入することで、これらの手間やコストを大きく軽減することが可能となります。

印紙税が不要である

印紙税とは、契約書に印紙を貼る形で納める税金です。
書面で契約書を取り交わす際には、内容に応じて契約書に印紙を貼付しなければなりません。
また、押印する契約書を複数枚作成すれば、契約書の通数分だけ印紙を貼ることが必要です。

印紙税の額は、契約書の内容や契約書に記載の金額などによって異なるものの、数万円にのぼる場合もあり、特に契約件数の多い企業では大きな負担となっていることでしょう。※2

一方、電子契約は現在のところ印紙税の課税対象とはなっておらず、印紙を貼る必要はありません。
そのため、大きなコスト削減につながります。

リモートワークでも対応しやすい

コロナ禍をきっかけに、リモートワークが全国的に広がりました。
リモートワークは感染症対策以外にも数多くのメリットがあり、リモートワークによって優秀な社員を確保できたという企業も少なくないでしょう。
そのため、たとえコロナ禍が終わっても、リモートワークを継続する企業は多いと思われます。

しかし、紙の契約書は、リモートワークの妨げとなりかねません。
契約書を印刷したり社内で保管している印鑑を押したりするためだけに出社する必要が生じるとなれば、負担が大きいことでしょう。

一方、電子契約の場合には、押印などのためだけにわざわざ出社をする必要はなく、リモートワークでも対応しやすくなります。

保管や管理が効率化しやすい

紙で交わした契約書は、保管や管理に手間がかかります。

契約書がきちんと分類して整理できていなければ、参照したい契約書を探し出すだけでもひと苦労でしょう。
更新がある契約については、更新期限の管理にも手間がかかります。
また、仮に会社が承認していないはずの契約に会社印が押されているなど疑義が生じた場合において、誰が押印したのかの証拠を掴むことは困難でしょう。

一方、電子契約の場合には電子上で管理や検索が可能です。
電子署名のログも残るため、こっそり会社印を持ち出して押印するなどの不正も起きづらくなるでしょう。

電子契約のデメリット

電子契約には、デメリットも存在します。
主なデメリットは、次のとおりです。

対応ソフトの導入などが必要となる場合がある

電子契約を行うためには、システムの利用登録などをしなければならないほか、専用ソフトの導入が必要となる場合もあります。
導入費用は利用をするシステムなどによって異なりますが、月々一定のコストが必要となるでしょう。

慣れるまでは時間がかかりやすい

新たに電子契約を導入した場合、そのシステムや業務フローに慣れるまでは時間がかかります。

また、そのことを理由として社内で反対意見が出る可能性もあり、意見の調整に時間を要する可能性があるでしょう。

紙の契約書と混在する可能性がある

先ほど解説したように、電子契約はすべての契約に対応できるわけではありません。
また、契約の締結先が電子契約を社内フローとして導入しておらず対応ができない場合には、従来どおり紙で契約を交わすこととなります。

そのため、電子契約を導入してもすべての契約を電子に移行できるわけではなく、当面の間は電子での契約と紙での契約が混在することになるでしょう。

サイバー攻撃のリスクがある

電子契約の最大のリスクは、サイバー攻撃です。
ただし、信頼できるシステムを利用し、かつセキュリティソフトを常に最新版に更新しておくなど対策をすることで、大半の攻撃は防ぐことができるでしょう。

まとめ

企業が電子契約を導入することには、印紙税が不要となるなどさまざまなメリットが存在します。
電子契約を導入する企業は年々増加しており、今後は契約の締結先から電子契約にしたいと要請される機会も増えてくることでしょう。

そのため、早くからシステムを導入し、システムの利用自体や電子契約とした場合の業務フローに慣れておくことをおすすめします。

Authense法律事務所では、電子契約書を付帯した顧問弁護士プランをはじめ、多様な企業法務ニーズに対応するさまざまな料金プランをご用意しております。
電子契約の導入をご検討の際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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