コラム

公開 2020.08.31 更新 2023.01.30

新型コロナウイルスが不動産賃貸借に与える影響は?今だからこそ知っておきたい法律知識

新型コロナウイルスが不動産賃貸借に与える影響は?今だからこそ知っておきたい法律知識

令和2年5月25日に緊急事態宣言が全国で解除された後も、新型コロナウイルス感染が全国で拡大する中、各自治体による自粛要請が相次いでいます。
こうした中、新型コロナウイルスの感染拡大に起因して、店舗が休業をしたり、商業施設そのものが休業により閉館・営業時間の短縮を行ったりするなどしています。
そこで、今回は、新型コロナウイルスが蔓延している今だからこそ知っておきたい不動産賃貸借に関する法律知識をご紹介します。

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1.テナントが営業自粛要請により休業した場合、テナントからの賃料の支払猶予や賃料の減額に応じなければならないのか?

新型コロナウイルスの影響により、テナントの経営が安定せず、賃料の支払いが難しい場合には、テナントから、賃料の支払猶予や賃料減額の要求がなされることが考えられます。それでは、賃貸人としては、テナントからのこうした要求に応じなければならないのでしょうか。

⑴ 賃貸借契約書の内容について

上記のようなテナントからの賃料の支払猶予や減額が認められるかどうかについては、賃貸借契約書の内容を確認する必要があります。例えば、賃貸借契約書に、感染症の蔓延を理由として、事業活動を自粛せざるを得ない場合の賃料の支払いに関する取扱いなどについて定めがあれば、その条項を基に、支払猶予や減額ができるかどうかを判断することになります。

しかし、現在締結されている賃貸借契約において、今回のような新型コロナウイルス等の感染拡大を想定した条項を設けた規定はほとんどないと思います。
また、賃貸借契約書には、天災地変その他の不可抗力により建物の使用ができない場合の賃料の支払いに関する規定が定められていることがあります。昨今のコロナの感染拡大が、こうした不可抗力条項に当てはまるのであれば、賃料の支払い義務を免れうることにもなり得ます。

ただし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大が不可抗力条項に該当するとまでいえるかどうかは、個別具体的に判断されるため、明確な判断基準になる規定とはいいがたいでしょう。
そして、契約書に記載のない事項については、民法などの法律の定めに従って判断をしていくことになります。

⑵ 支払猶予について

国土交通省からは、令和2年3月31日付で、各不動産業界団体に対して、新型コロナウイルスの影響により賃料の支払いが困難なテナントに対して、賃料の支払猶予に応じるなどの柔軟な措置の実施を検討するよう依頼がなされています。
しかし、こうした検討依頼は、法的な根拠に基づくものではないため、賃貸借契約において支払猶予に関する規定がない限り、賃貸人としては、支払猶予に応じる法的義務はありません。

⑶ 賃料の減額について

賃料減額請求については、民法611条で規定されております(なお、民法改正の前後でが令和2年4月1日に施行されたため、同日より前に締結された契約には改正前の民法が、同日以降に締結された契約(更新する場合も含みます。)には改正民法が適用されます)。

改正民法の611条には、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と定められています。

そのため、テナントからの賃料減額請求が認められるかどうかについては、新型コロナウイルスの感染拡大が、「滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものである」(以下「使用不能要件」といいます。)といえるかどうかが問題となります。

この問題は、先例があるわけではなく、様々な解釈があり得るところではあります。

一つの見解としては、テナントとしては、新型コロナウイルスによる政府からの営業自粛要請に応じる法的な義務はないとしても、昨今の営業自粛要請は、事実上従わざるを得ないような社会的要請である以上は、社会通念上、建物を使用することができず、使用不能要件に該当するというものです。

一方、テナントが営業自粛要請に応じる法的な義務はない以上、借りた店舗を使用するかどうか(営業を自粛するかどうか)は、テナントの自主的な決定によるものである以上、使用不能要件には該当せず、同条に基づいて減額請求をすることはできない、とも考えられます。現状では、後者の解釈の方が素直な帰結になるでしょう。

改正前の民法が適用される場合、改正前民法611条1項は、「賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。」と規定しており、改正後の規定と比較をすると、賃料減額の要件が「滅失」の場合に限定しております。ただし、裁判例をみると、「一部滅失」のみに限定するわけではなく、物理的に建物が滅失していない場合であっても、使用収益をすることができない場合には、同条に定める賃料減額の対象と解釈されていますので、改正後の民法との間でそれほど大きな違いはないでしょう。

過去の裁判例では、阪神淡路大震災により一部損壊があり、使用収益できない賃貸居室について、「天災によって賃貸借の対象物が滅失に至らないまでも損壊されて修繕されず、使用収益が制限され、客観的にみて賃貸借契約を締結した目的を達成できない状態になったため賃貸借契約が解約されたときには、賃貸人の修繕義務が履行されず、賃借人が賃借物を使用収益できないままに賃貸借契約が終了したのであるから、公平の見地から、民法536条1項を類推適用して、賃借人は賃借物を使用収益できなくなったときから賃料の支払義務を負わないと解するのが相当である」とされています(大阪高判平成9年12月4日)。

また、東日本大震災のときに、原発事故の影響で避難指示がだされ、立入制限等が行われることになった区域に店舗を構える賃借人が、店舗の閉店を余儀なくされたとして被った損害を損害賠償請求した事案において、裁判所は、賃貸人が賃借人に対して、物件を使用収益させる義務は、「本件事故という当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行できなくなったと認められるから、原告は、上記賃料を支払う義務を負わない(民法536条1項)」(札幌地判平成28年3月18日)との判断を示しています。

ただし、これらの裁判例では、自然災害により物理的に建物が使用困難であるという事案を想定しており、これらの裁判例の考えが今回の新型コロナウイルス感染拡大にも同様にあてはまるとはいいきれないでしょう。

2.賃料の支払猶予や減額を要求された場合にはどうすればいいの?

上記のとおり、支払猶予・減額請求が直ちに認められるわけではなく、賃貸人としては、テナントからのこうした要求に必ず応じなければならないわけではありません。

ただ、実際には、賃貸人が、テナントに対して、賃貸借契約の内容通りに賃料の支払いを求めると、テナントの事業が圧迫されることになり、結果として、中長期的な観点から賃料収入を円滑に得ることが難しくなることが考えられます。また、賃料が長期間支払われないことを理由に賃貸借契約を解除してテナントを退去させたとしても、現在の状況下においては、すぐに新たなテナントが入る保障もなく、空室により賃料収入を回収できないというリスクもあります。そして、資金繰りの苦しいテナントが倒産をした場合には、最終的には債権を回収できないという事態にもなりかねません。

そのため、賃貸人としては、経済的合理性を考えた場合に、テナントからの支払猶予・減額に応じるということも、一つの手段としてあり得ます。ただ、その場合には、どれくらいの期間支払猶予をするのか、いくらの賃料をいつまで減額をするのか、などの点を必ず明確に書面として残しておく必要があります。また、そもそもの大前提として、テナントに、収入・売上が減少し、本当に賃料の支払いが困難となっているかどうかの客観的な資料の提出を求める必要があるでしょう。

3.建物全体を閉鎖した場合の賃料は?

上記では、テナントが営業自粛要請を受けて、休業をする場合を念頭に置いていました。それでは、新型コロナウイルスの影響により、賃貸人が商業ビルあるいはオフィスビルの建物全体を閉鎖した場合、賃貸人は、テナントに対して、建物を閉鎖していた期間の賃料を請求することができるのでしょうか。

まず、この場合も、上記1⑴と同様、賃貸借契約書の内容を確認する必要がありますが、
賃貸借契約にそのような規定がない場合には、民法などの法律に従って判断していくことになります。

賃貸人が、営業自粛要請によってやむを得ず建物を閉鎖した場合(いわゆる不可抗力または賃貸人に帰責性がない場合)には、テナントは、その閉鎖している期間、建物の使用収益ができなくなりますので、改正前民法536条1項の適用(又は類推適用)により、テナントは賃料支払義務を負わないことになるでしょう。

なお、改正民法が適用される場合には、改正前とは異なり、当然に賃料の支払義務が消滅するのではなく、賃料の支払いを拒むことができるとされています。

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4.営業時間を短縮した場合は?

上記のように、建物全体を閉鎖した場合ではなく、テナントの営業時間を短縮した場合には、賃料減額請求などは認められるでしょうか。

商業施設等の建物全体が閉鎖され、テナントが建物を全く使用できない場合と比較すると、営業時間短縮の場合は、賃貸物件を使用収益させること自体はできていますし、また、通常、商業施設等では、賃貸人側が定める営業時間の範囲での使用をするという内容で合意をしていることが多いため、商業施設全体の営業時間の短縮は、通常想定されるべきものであり、営業時間短縮の不利益はテナント側が甘受すべきということになるでしょう。そのため、営業時間の短縮の場合には、611条に基づく賃料減額請求は認められないことになる可能性があります。

5.まとめ

以上のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大が不動産賃貸借に与える影響は大きなものとなっていますので、自社の状況に応じて、法的な観点も含めた適切な検討が必要になってきます。

また、今後、新たに締結する賃貸借契約(契約を合意更新する場合も含む。)については、コロナウイルスも含む新型ウイルスの感染拡大等により、建物の使用収益に影響が及ぼす事態が生じた場合の賃料減額、敷金等に関する条項を設けるかどうか検討する必要が出てくるでしょう。これは、必ずしもテナントにのみ有利なわけではなく、賃貸人にとっても、契約書にこうした条項を設けることにより、今回のような事態が再度発生した場合の煩雑な紛争を回避するためにも有用であるといえます。

お困りの場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。

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