コラム

公開 2020.07.15 更新 2023.01.27

大企業によるスタートアップ投資が激減。契約目前での契約破棄における法的問題は?

大企業によるスタートアップ投資が激減。契約目前での契約破棄における法的問題は?

新型コロナウイルスの感染拡大により、明確な将来の見通しも立たないまま、各企業は事業の方針転換や、勤務体制の変更など様々な変化を強いられています。100年に1度と言われるパンデミックは全産業へ非常に大きな逆風を与えています。
今回は契約目前での契約破棄における法的問題について、解説します。

記事を監修した弁護士
authense
Authense法律事務所記事監修チーム
Authense法律事務所の弁護士が監修、法律問題や事例についてわかりやすく解説しています。Authense法律事務所は、「すべての依頼者に最良のサービスを」をミッションとして、ご依頼者の期待を超える弁護士サービスを追求いたします。どうぞお気軽にご相談ください。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

1 コロナ禍によるスタートアップ投資への影響

ここ数年は景気が安定しており、資金調達バブルと言われるほどスタートアップ企業は比較的調達がしやすい環境にありました。
しかし、新型コロナウイルスによる経済見通しの不透明さにより、国内ベンチャー市場にも不況の波が押し寄せようとしています。リーマンショックのときと同様に、ベンチャー企業に対する投資マネーは減っていくと言われています。また、景気悪化の影響により、投資家は、成長企業への投資よりも、リスクの少ない安全な企業に投資する傾向が強まると予想されます。
一方で、不況下で割安に投資をするとそれだけリターンが大きくなることを狙い、コロナの影響で不況になっても、投資のペースを緩めない姿勢を表明している強気なVCも少なくありません。
いずれにせよ、今後は、ベンチャー企業も投資家もより一層その実力を厳しく問われることとなるでしょう。

2 契約目前での契約破棄における法的問題は?

さて、資金調達の場面では、上述のコロナ禍の影響により、資金調達に向けて投資家と交渉を進めていたにも関わらず、直前になって資金調達を見送りたいと契約を破棄されてしまうトラブルが生じることが想定されます。
契約目前になって、契約を白紙にされた場合、法的な問題はないのでしょうか。
同様のトラブルは、資金調達の場面に関わらず、様々な契約締結の場面にて生じることが考えられます。以下では、契約直前になって契約破棄されたケースについて、どのような場合に法的責任が生じるのかについてご説明いたします。

3 契約準備段階における信義則上の注意義務違反

近代私法基本原則である契約自由の原則により、契約を締結するか否かは基本的に自由です。したがって、原則として、交渉の両当事者はいつでも任意に契約を打ち切ることができます。
しかし、契約締結の交渉が進むにつれ、一方当事者の言動から、他方当事者が、契約成立が確実なものとの期待を持ち、そのために相当の費用をかけて準備行為に入るという場合もあります。
契約締結に至る準備段階においても、当事者間において契約締結の準備が進捗し、相手方において契約の成立が確実のものと期待するに至った場合には、その一方の当事者としては相手方の右期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に努めるべき信義則上の義務があるものというべきであって、一方の当事者が右義務に違反して相手方との契約の締結を不可能ならしめた場合には、特段の事情がない限り、相手方に対する違法行為として相手方の被った損害につきその賠償の責を負うべきものと解するのが相当とされています(最三昭和58・4・19)。最高裁判例においても、上述の最三昭和58・4・19のほか、最三昭和59・918、最一判平成2・7・5、最二判平成18・9・4、最三平成19・2・27等において契約準備段階における信義則上の注意義務違反が肯定され、損害賠償責任が認められています。
当該信義則上の義務違反の場合の責任の有無は、交渉がどの程度まで進んでいたのか、当事者が交渉中どのような言動に及んでいたのか等諸事情を総合的に考慮して判断することとなります。
なお、契約を締結させることが公平の見地から見て不合理である事情がある等の特段の事情がある場合には、例外的に責任を生じさせないと解されています。

弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

4 損害の範囲について

損害の範囲について、判例は、契約が成立していない段階では、契約が成立すると信頼したため被った損害である信頼利益の賠償に限定されると解しています。そして、信頼利益のうち相当因果関係がある損害について賠償が認められます。
信頼利益の具体的内容としては、契約締結準備費用や履行準備費用がこれに当たります。一方、転売利益、値上益、目的物の利用による利益などは履行利益といい、賠償は認められないと考えるのが一般的です。しかし、具体的事例における相当因果関係との関係で判断するため、その認定は必ずしも明確ではありません。

5 最後に

以上のように、契約の締結のための交渉はお互い信頼関係の下で一歩一歩積み上げていくものです。契約交渉の一方当事者が他方当事者の信頼を裏切る形で一方的に契約の締結を不能にした場合は、その当事者は相手方に対し信頼利益の損害賠償をしなければなりません。
なお、資金調達の場面でいえば、通常、大手のVC等は、投資委員会等での審議・検討のうえ最終的な決定が出るまでは投資の確約等をしないよう十分に注意しているものと思われます。また、大手の企業ほどレピュテーションを重視するため、実際には、投資決定がされた後に直前で契約を破棄されるという例はあまり想定されないかとは思います。
しかし、個人投資家との契約やその他さまざまな契約交渉の場面において、上記の契約破棄トラブルが生じる可能性は十分ございますので、不誠実に直前に交渉を打ち切られた場合には、一度弁護士へご相談されることをお勧めいたします。

顧問契約、企業法務のご検討・ご相談はこちら

企業法務に関する資料、様々なプランを
ご用意しています。

弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

こんな記事も読まれています

CONTACT

法律相談ご予約のお客様
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

ご相談から解決までの流れ