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コーポレートガバナンスのススメ

コーポレートガバナンスのススメ

近年、ネットやニュースなどでコーポレートガバナンスという言葉を耳にする機会が増えています。コーポレートガバナンスは企業にとって重要な課題の1つと言っても過言ではありません。今回は、コーポレートガバナンスの概要、目的とメリット、内容と事例を説明します。

1.概要

コーポレートガバナンスという言葉は一義的ではありませんが、東京証券取引所が上場企業を対象に定める「コーポレートガバナンス・コード」の前文において、次のような定義と説明が設けられています。
「・・・『コーポレートガバナンス』とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。・・・これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えている。」(2018年6月1日改訂「コーポレートガバナンス・コード」株式会社東京証券取引所)
ここで謳われているように、コーポレートガバナンスの目的は、①違法・不正な意思決定が行われないための仕組みを構築し会社のリスクや不祥事を防止すること(いわゆる「守りのガバナンス」)と、②業績向上のために適切なリスクをとった経営判断をスピーディーに行うことができるようにすること(いわゆる「攻めのガバナンス」)と整理できます。



Q.ソフトローとしてのコーポレートガバナンス・コードとは?

A.コーポレートガバナンス・コードはソフトローである、と説明されることがあります。国家が制定した法令であり最終的に国家による強制力が担保されているルールがハードローであるのに対し、国家以外の主体が内容を定め法的な強制力がないルールがソフトローです。会社法や金融商品取引法はハードロー、東京証券取引所の上場規程やコーポレートガバナンス・コードはソフトローにあたります。

2.コーポレートガバナンスの目的とメリット

上記のコーポレートガバナンス・コードで「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」が企業にとっての究極的な目的とされているとおり、コーポレートガバナンスは企業価値向上のための手段であると位置付けられます。
バブル崩壊後の約20年余、日本企業の稼ぐ力は諸外国に比べて低迷し、株価指数に表される日本企業の企業価値は、諸外国と比較して一人負けの状況と指摘されています。その中で、企業価値の向上を図る上で乗り越えなければならない課題の多くが、コーポレートガバナンスに関するものと指摘されています。
企業価値の向上は、株主・投資家のメリットであるのみならず、その果実は、従業員の待遇向上や福利厚生の充実、取引先との良好な関係の維持、地域社会への貢献等に還元され、当該企業のすべてのステークホルダーのメリットであると言えます。



Q.企業価値とは?

A.企業価値とは、会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性又はその程度を言うものとされています。企業価値の評価においては、キャッシュフローや利益をベースにした評価方法(インカムアプローチ)、株式市場の評価をベースにした評価方法(マーケットアプローチ)、純資産をベースにした評価方法(ネットアセットアプローチ)など異なる複数のアプローチがあり、唯一正しい評価方法があるのではなく、評価の目的や企業のステージ・戦略・状況によって、選択的又は複合的に適用されるべきものになります。

3.コーポレートガバナンスの内容と事例

コーポレートガバナンスについての規範(ルール)としては、まず会社法・金融商品取引法があり、選択可能な機関設計や企業の規模や状況に応じた情報開示の規定が設けられています。ガバナンス体制の構築は、これらのハードローで規定される制度や規律を前提に行うことが必要になります。具体的には、登用可能な人材の選定や想定されるリスクをもとに、監査役会設置会社・指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社の選択や任意の諮問委員会の設置などを検討することとなります。
一方、ソフトローであるコーポレートガバナンス・コードでは、コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するルール)を前提に、目指すべきガバナンス体制の方向性にまで踏み込んで、5つの基本原則と30の原則及び38の補充原則が定められています。



5つの基本原則
  • ①株主の権利・平等性の確保
    株主の実質的な権利や平等性の確保、少数株主等への配慮等
  • ②株主以外のステークホルダーとの適切な協働
    従業員や顧客といった多様なステークホルダーとの協働等
  • ③適切な情報開示と透明性の確保
    財務情報や非財務情報の主体的な開示、情報の有用性の向上等
  • ④取締役会等の責務
    企業戦略の設定、適切なリスクテイク、独立社外取締役の有効な活用等
  • ⑤株主との対話
    株主総会以外での株主との対話、株主と会社の相互理解の促進等

⑴ 伊藤忠商事株式会社の例

総合商社の伊藤忠商事では、「豊かさを担う責任(Committed to the Global Good)」という企業理念等に則り、長期的な視点に立って企業価値の向上を図る基本方針に従って、コーポレートガバナンス体制が構築されています。具体的には、通常の業務執行が経営陣へ委任されつつ、独立した社外取締役の複数名選任、社外役員中心の「ガバナンス・報酬委員会」「指名委員会」の設置、社外取締役比率を3分の1以上とすることなどにより、経営の監督が強化されています。経営の執行と監督の分離が促進され、モニタリング重視の体制に移行した事例といえます。

⑵ 株式会社ツムラの例

漢方薬品メーカーのツムラは、2017年6月、コーポレートガバナンスの強化のため、「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」へ移行しています。監査等委員会は3名中2名が社外取締役であり、監査等委員が取締役会の議決権を保有することで取締役会の監督機能が強化されるとしています。また、取締役会の任意の諮問機関として、社外取締役中心の「指名・報酬諮問委員会」が設置され、社外取締役による監督が強化されています。

⑶ 日本航空株式会社の例

日本航空株式会社では、会社と株主とのコミュニケーションを図る活動として、株主との対話を担当する経営陣や責任者の指定・配置、四半期決算や経営計画公表時の説明会の開催、株主向けレポートの発行や施設見学会の開催、株主との対話の結果の経営陣へのフィードバック等が行われており、株主との対話や相互理解の促進に向けた活動が行われている事例と言えます。



Q.内部統制とコーポレートガバナンスの関係は?

A.内部統制とは、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、法令順守の達成等を目的にした、企業のリスク管理のプロセスです。会社法では、取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制等が、いわゆる内部統制システムと呼ばれ、大企業等一部の会社ではその体制整備に関する決定が義務付けられています(会社法348条4項等)。内部統制システムは、コーポレートガバナンスの一部と位置づけることができます。特にモニタリング重視のガバナンス体制を採用する場合には、業務執行の決定権限が経営陣に委任される範囲が広がるため、より内部統制システムの構築と運用が重要となります。

4.まとめ

コーポレートガバナンスの充実は、中長期的に企業価値を向上し、すべてのステークホルダーにメリットをもたらします。一方、ガバナンス体制は、具体的な各企業の状況や経営方針などを前提に、現実的に設計する必要があります。また、上場企業に限らず、中小企業や成長期待の高いベンチャー企業においても、事業承継や少数株主対応、資本政策やIPO準備などにおいて、コーポレートガバナンスの理解と対応は不可欠となります。リスクが顕在化していない平時や、企業規模が大きくなる前にこそ、コーポレートガバナンスについての理解と準備を進めておかれるべきでしょう。

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